月夏 様
  UNFATE
DON'T CALL ME CRAZY  

 

どこの王様だよ。

 

思わずそう言ってしまいそうだったにも関らず、ゾロはどうしてかその言葉を飲み込んでいた。

何せ初めて互いに言葉を交わしたばかりだというのに、そいつがいきなりしてきたのは『要求』だ。言う通りにしてやる義務などはなかったし、つん、と少し顎を上げたその態度は如何にも生意気そうで、普段なら全く相手にしない種類の人間のはずだった。

敢えてそばに寄ってみたのは自らの意思だったが、理由は後で考えてもよくわからなかった。ただ気付いたらそうしていたとしか言いようがない。

正面から見た、気の強そうな目は悪くなかった。それ以上に、拙い指使いが気になった。

心底困っているような様子を見てお節介めいたことをしたのは、確かに自分にとっては珍しいことだったかもしれない。恩を売るつもりもからかうつもりも全くなく、ただもどかしかっただけのことで、何かを相手に期待など、するわけもない。だから。まさか。

───俺に箸の使い方教えてくんねェか。

───俺、今日誕生日なんだ。

 

プレゼントを寄越せ、と伸ばされたその手を、振り払うことができなかったのは。

いかにも王様然とした強気のその瞳の奥が、そのくせどこか不安気に揺れていたからかもしれない。

 

 

最初のその認識が間違っていなかったことを、ゾロはすぐに知ることになった。

何しろ本当に常に何に対しても偉そうなのだ。

かといって、品がいいというわけでもなく、言葉遣いは汚いしガラも悪い。

気に入らないことがあるとすぐに蹴りを繰り出す足が狙うのは、徹底して、男だけ。

そして、それとは全く正反対の、女への甘い声と態度。

珍しくちゃんと聞いていた世界史の授業中、『暴君』という言葉に、ああ、それだ、と思わず納得してしまったくらいの傍若無人な男。

それなのに、どうしてか自分に対しては、不思議な態度を取る彼に、ずっと戸惑っていた。

悪態を吐いたその口が、何だか甘えたように緩むのは何故なのか。

不安そうに見上げてくる蒼い目や、時折朱に染まる白っぽい肌。目の前でひよひよと揺れるその金色の髪は。

 

箸を掴む、拙いその指使いから目が離せないのは。

 

 

 

ところでロロノア・ゾロという男は、幼い頃から礼儀は勿論作法や立ち居振る舞いなどを、母親から厳しく叩き込まれて育ってきた。

現在も続けている剣道も、元はその一環で、それ以外にも書やら水墨画やら、本当に端から見ていれば、いつの時代のどこの武家の男子だというくらい、その教育は徹底していた。

因みに、ロロノア家は昔ながらの日本家屋で少々歴史を感じさせる佇まいをしているが、何がしかの『名』持つ家系ではない。父親は普通のサラリーマンだ。

根拠の見えない厳しさに幼い頃は反発も覚えたけれど、少々の手抜きと息抜きは学校で、という意外な要領のよさを見せつつ、ゾロは健全に少年時代を送った。

そのうち本気で剣道に打ち込むようになって初めて墨を磨ることの効力を知った時は、厳しかった母に心から感謝をしたものだ。

そんな、ちょっと根が単純なゾロは、母親が大変な宮本武蔵フリークであることを、まだ知らない。

 

そして、そんなゾロはやはり、金髪の編入生が来た、というクラスメイトの話題からも一歩引いたところにいた。当時結構な騒ぎになったことは何となく覚えてはいたが、勿論他の生徒たちのようにわざわざその姿を見に行くような真似はしていない。視界のどこかがキラキラとした何かをひっかけるなあ、なんてことを時折ぼんやりと思ったりしたことはあったけれど、それだけだった。

卒業式の間際。自分たちには関係のない行事とはいえ、学校全体が落ち着かない雰囲気だった、あの日まで。

 

要するに。

墨だとか半紙だとか襖だとか胴着だとか。

そんなモノクロの世界に生きてきたゾロにとって、それは静かな、だけど大きな衝撃だったのだ。

 

世界でそこだけが、輝いていた。

そしてゾロは、彼を、見つけてしまった。

まさしく、見つけてしまったのだと。

 

 

 

 

「ゾロってサムライなんだよなっ」

 

恒例になった、『練習』の時間。

唐突に、金色───サンジがそんなことを言ってきた。

「……なんだ、そりゃ」

サンジの興味は、日本的なものや古いものに対して強い。

望んだわけでもない来日にどうやら少々の反発も持っていたらしいサンジは、敢えてこの国を知ることを避けてきたような節がある。食文化に対しては、根本的な興味の持ち方が違うのか既に随分と詳しくなっていたが、それ以外の部分では漸く、といったところだった。

中途半端に仕入れてくるその知識はどこか偏っていて、時折突拍子のないことを言ってはゾロを困惑させる。

間違いを正すために説明しようとして、どう言っていいかわからないことも多かった。こと文化のようなものは特に。それでも古い事柄に対する知識は他の同級生よりあるだろうし、何より自分が間違ったことを教えたくない気持ちもあって、丁寧に教えてきたように思う。

こんなに言葉を尽くす相手は初めてで、ゾロはそれを拒絶することができないでいる。

「だって、日本男児だし」

「……それがどうして侍ってことになるんだよ」

「だって剣士じゃねェかよぅー」

「あのな」

「サムライだよな」

「……」

どうしてなのか、ほんのりと嬉しそうに言われても。

そんな理屈は日本といえばゲイシャフジヤマというのと、ほとんど変わらない。

全否定したいところだったけれど、サムライ、とどこかたどたどしく言ったサンジの口元のせいで、言いそびれた。

 

最近、こういうことが多い。

 

サンジとの付き合いは、もうすぐ一年になろうとしている。

あの出逢いの後、進級したクラスには彼がいて、『箸』だけだと思っていた付き合いは、結局学校生活全てとイコールになった。

進路に迷っていたサンジはゾロが大学へ行くと知ると自分も受験すると言い出したし、受験組はクラスもまとめられるから、3年もまたクラスメイトになる確率は高い。

そんな進路の決め方を考えれば、同じ大学へ行くと言い出す可能性も低くないと、ゾロは踏んでいる。

要するに、ずっと、続いていくのだろう。

この男との、縁は。

それを思うと、知らず溜息が出た。

 

「なー、ゾロ」

「なんだよ」

「週末ってさ、試験前で部活休みだったよな?」

「ああ」

「うちで勉強しねェ?」

「……構わねェけど」

「じゃあ、土曜日から来いよ、俺飯作るし。泊まってけばいい」

「いや、それはオヤジさんにも迷惑だから……」

「平気だよ、ジジィいないんだ」

「あ?」

「土日、泊まりで出掛けるんだって」

 

ニコニコと笑うサンジには、当たり前の。

それを平気だという根拠が、ゾロには、ない。

 

 

行けなくなった、と言ってしまうのは簡単だった。サンジは仕方ないな、と笑って許すだろう。

交わした約束を破ることは、ゾロの主義にどうしても反するのだが、あの強面のジィさんが帰ってこないとわかっている空間で二人きり。そんなところに放り込まれた自分がどうなるのか、全く予測が付かない。

律することは、人より長けていると思っている。それでも、そんなものが及ばない衝動があることも知ってしまった。

何より、その結果傷付くのは自分ではない。

行かない、と、言うのは簡単だった。それで全てが守れるのなら。

だが。笑って許すサンジの、その瞳の奥は寂しそうに揺れるだろう。

そんな顔は、させたくない。

まして、自分が原因で、なんて。

だけど。

 

 

「……なぁ……、明日だけどよ…」

「ん?」

「あ、いや…」

「そうだ、昼飯はちゃんと家で食ってこいよ。ダンランってやつは大切なんだからな。んで、夜はうちでダンランしろ」

「……」

何食いたい?なんて無邪気に尋ねてくるサンジの。

その心待ちにしている様子を見て、ゾロに何か言えるわけもなかった。

 

 

 

「ゾロー!」

手を振って走ってくる男に、ゾロは頷くだけの返事をする。

どうしてか辿り着くのに異様に時間がかかるサンジの家に行く時は、いつも駅で待ち合わせだ。

初めは歯医者だった広告が、今はネットカフェのものに変わった、改札を出てすぐ左の柱の前。

何度目かの約束をした時、絶対にここにいろ、動くな、俺が見つけるから、と日本歴二年未満の男に大真面目な顔で言われて以来、ゾロは律儀にそれを守っている。

サンジが近づいてくると、周囲の視線が自分たちに集まるのを感じる。

最初はそれがひどく煩わしかった。今でもそれは変わらない。

ただ、他にも妙な感情は湧いていて、それが結局こうやって迎えを待つ理由にもなっている。

───サンジはここに、俺を迎えに来るんだ。

 

「スーパー付き合えよ」

と、銜え煙草で笑う顔は、学校で見るより少し大人びて見える。

初めは喫煙なんて悪癖はやめた方がいいなどと言ってみたりもしたが、今では放置だ。どうせ聞きやしないし、なんだかんだ言ってもその口元を見てしまう自分を、ゾロが諦めたからだった。

荷物持てよな、なんて、顎で使う素振りを見せられて腹を立てない相手は彼だけで、多分サンジはそれを自覚していない。

全く、流石に王様の人の使い方は正しい。と、自嘲するはしから、何の含みもない笑顔を向けられるのだ。

甘えられている事実を悪くない、と思う。だが、反面憂鬱でもあった。苦しい、と言った方がいいかもしれない。

「あ、雛あられだ。食う?」

聞き覚えのある曲と、ピンク色のディスプレイの前。まるきり縁のない場所で立ち止まらされて、さすがにゾロも少し恥ずかしい。

「食わねェよ」

「じゃー甘酒」

「いらねェって」

「えー、なんでだよ、季節の行事は大事だろ」

「……女とやれよ、んなもん」

思わず少し投げやりになったそれにサンジは言葉を返さず、手に持った雛あられをそっと棚に返した。

「俺、最初ひな祭りってヒナせんせーフェスティバルかと思っててさー」

その教師がいかに「祭」に相応しい女性なのか、延々と聞かされる羽目になった。

 

そんな風に。

いつもと同じ、何事もない一日、だったはずだ。少なくともゾロの方は、自らの意思でそういう風にしてみせるつもりで。

 

 

見上げた視界に映る、やたらと白い天井。

明かりを背にしたその、影の差す顔。

さらりと音を立てるように、自分に向かって流れ落ちる金糸。

それが頬骨の辺りに触れて、漸くはっとする。

 

ここに至るまでの記憶が、怒濤のように再生されたけれど、何度考えても何度思い出しても、わからなかった。

 

サンジに押し倒される理由など。

 

「……ゾロ」

 

その声が届いた耳元が、火が付いたように熱を持つ。あまりの熱さに、痛みが生じるほどだった。

こんな殺人的な声で呼ばれる訳がないのだ。

ここにいるのは本物のサンジで、自分の脳内で都合よく変換された存在では、決してないのだから。

 

「てめ…っ何の真似だよ…!?」

ついさっきまで、サンジの作ってくれた料理を一緒に食べ、今日の目的である勉強の為のノートを開いていた。

サンジはずっと機嫌がよくて、だからゾロも少し気を抜いていたかもしれない。

けれど、その気の緩みから起きてしまうであろう出来事は、こんなものではなかったはずだ。

少なくとも、自分の方がサンジに押し倒されてしまうような、こんな。

「いいから、黙ってろ」

強気の言葉は、朱色に染めた目元が裏切る。

どう考えてもそれは、上に乗る側の男のものじゃない。

肩を押さえ込まれていようと、強制を感じることもできない軽い身体など、今すぐにでも払いのけてしまえばいい。

そのまま喧嘩になだれ込んでしまえれば、意味のわからないサンジの行動も、この衝動も含めた全てをうやむやにできるだろう。

強いバネの様な蹴りはよく知っている。いくら自分でも、本気でかからなければ梃子摺るほどに、強くて柔軟でしなやかな、細い身体。

燃えるように輝く蒼の、白くて、いつもキラキラした、その。

───っ」

目の前に唇が近づいていても、ゾロはそれを押しのけるための手を、動かすことすらできなかった。

瞬きさえも。

 

初めはただ触れるだけ。

柔らかく押し付けられた唇が擦れ合う粘膜の僅かな感触に、耳の後ろ辺りをぞくりと何かが走り抜けた。

たったそれだけで震えた身体に驚愕している間もなく、一度離れた唇が今度は少し角度を深くして重なってくる。

自然と開いた唇の間に入り込んでくる何かはサンジの舌以外の何者でもなくて、ゾロは本気で混乱してしまった。

サンジの女好きを、一年間、これでもかというくらい身近に見てきた。

その期間一度も特定の相手を作っていなかったと知っていても、この先当然のようにそういう未来を現実に見ることになるのだろう、と。

その時どう思うのかはわからない。

でも、自分を律し続ける自信はあったのだ。

まるで刷り込みのように自分に懐いてくるサンジは、ただ本当に、『好き』なだけなのだろう。

苦手だと思っていたらしいその反動から、『日本的』なものへの関心が異常に高いことは知っている。

それを体現するかのような自分の存在が、だからこそ彼の歓心を買っていることも、だ。

ごそりと身じろぎをしたサンジの手が、ベルトにかかる。

さすがにそれは見過ごせず起こそうとした身体は、絡み合った舌が鳴らした水音に、結局力を失くすだけに終わった。

カチャカチャとベルトを外していく音がして、するりと入り込んだ指先が触れたものは、呆けた頭とは別の意思を持って勃ち上がりかけていた。

───っ!」

びくりと跳ねた、その反応に、目の前の蒼い瞳が笑んで───

 

おかしいだろ、それは…!!!!

 

ずるずると下がっていく身体を止められなかった。

両脚の間で金が揺れている。

その視覚だけでも驚愕ものなのに、その口が銜えているのは、そそり立つ自分のモノなのだ。

その一箇所以外に全く力が入らず、抵抗ができない。できるわけもない。

躊躇いも見せず先端に軽く口付け、ぱくりと口内に含んで見せたサンジに、ゾロが受けた衝撃は相当だった。そして、同等の快感も。

熱く滑る粘膜に包まれて、あっという間に大きく育ってしまったソレに、サンジの喉が苦しげに鳴る。当たり前だ。全部入りきるわけなどない。引き抜いてすぐにでも楽にしてやらなければならないのに、身体は思考を全て裏切っていた。

もっと奥まで突き入れて、激しく揺さぶりたい。

伸ばしたがる手の中で、その情動を必死に握りつぶす。

そのうち全てを含むことを諦めたのか、サンジは先端を集中的に舐め始めた。更に白くて細い指が、たどたどしい動きで幹を扱く。

決して、上手いとは言えない舌と指の動き。それでも。

頭が茹るような熱に、もう何も考えられそうになかった。

(クソ…っ)

触れる、吐息。そしてじゅる、と生々しく立てられるその音に、全てを放棄しかけたその時。

「…俺に任せとけよ…、ゾロ」

ふう、と苦しげに息を吐きながら漸くサンジが言葉を発した。

さっきから、余裕の素振りでリードしているかのようだったサンジの声は、反面どこか震えていて、熱に押し流されそうだったゾロの理性を僅かに留めた。

ゾロに呼びかけていながらも、独り言めいた、まるで自分自身に言い聞かせるかのような。

「……のタシナミだもんな…」

 

頭をもたげていた最大級の欲望が、微かに聞こえたその台詞で全て吹っ飛んだ。

 

今、何を言った、この野郎は。

 

薄い肩を思い切り掴み、そこからサンジを引き剥がした。

目を丸くしている彼のその口の周りはてらてらと光っていて、この期に及んで動揺してしまう自分に嫌気が差す。

「……やめろ」

「ゾロ…!?」

「なんだってこんなことしてんだ、てめェはっ」

「え、気持ちよくなかったか?」

戸惑うその顔が、本当に腹立たしい。

どうしてこいつはこんなにバカなんだろう。

「なんでこんな真似してんのか聞いてんだ、俺ァ」

「……だって、その、ブシノタシナミなんだろ…?」

「だから、何が」

「シュドーってやつ」

俺、ちょっとネットで調べたんだよ、とどこか嬉々として話し出したサンジに、ゾロの身体が脱力していく。

「ゾロはサムライで、サムライがブシだってなら、ゾロにもそのタシナミをさせてやんなきゃって思って俺」

だからちょっと頑張ったんだけどさぁ、と困ったように笑う顔が、最強に最悪だった。

「……てめぇは俺が侍だからこんなことしたってのか」

「うん」

「衆道が武士の嗜みだから」

「うん」

「そんな理由で?」

「だって、俺、……」

ゾロの怒気に漸く気付いたのか、サンジが口篭る。

怒っているというよりは、何だか泣きたいような気分だ。

一年ほどの付き合いの中、他の誰よりも近いところにいると思っていた。

初めて見た時の、よくわからない衝動のような思いは今でも心の奥に燻っていて、それを持て余しつつも決して気取られないように、男なんて、と吐き出す口元が自分にだけは素直に笑みを零すそのことだけを大切にしようとしていた。

妙に懐かれて困惑していたのは、どういう風に接したらいいのかわからなかったからだ。

きっと初めから、友人だと思うことができなかった。

それでも間にあるものが友情以外の何かであるはずもなかった。

だからずっと、苦しかった。

もうほとんど何の支障もなく箸を使いこなすようになった男が、いつ「もういい」と言い出すかと。

それがなくなった時、たとえ進路を同じにしようと、付き合いがこの先も続くのだろうと、そこにあるものは別の物に変容するのだと思っていた。

武士の嗜みだから。

そんな言葉ひとつで、こんな真似をしでかすサンジの意図が、例えばこれまでありがとう、というものであるなら。

ゾロは武士だもんな。だったらそのタシナミってやつを御礼代わりにしてやるよ。ずっと、世話になったし。

本当にそう言われたかのように、その言葉は脳内で簡単に再生できた。

この読みが、大筋で間違ってはいない自信もある。

それでも、『こんなこと』をする理由。

できる、理由があるはずじゃないのか、と。

それは、自分こそが馬鹿げた期待かもしれない。でも───

まるで自らに言い聞かせるようにしながらも、大嫌いなはずの男のモノに唇を寄せる、あの決意を持つに至る、その理由が。

「……じゃあ、俺以外に武士だって奴がいたら、どうすんだ。嗜みだって要求されたら、てめェ同じことすんのかよ」

見る間にサンジの顔が赤く染まる。怒りで、だった。

キリキリとつり上がるそのぐる眉を見て、こういう表情の方が馴染み深いはずの男に抱く思いに、少しだけ自嘲の笑みが零れる。それをどう取ったのか、ますますサンジは血を上らせて、放り出されていたゾロの手首を鷲掴んだ。

その熱と、すぐさま返された言葉に、心臓が痛いくらい大きく跳ね上がる。

 

「するわけねェだろ!こんなの…こんなことゾロにしかゾロだから、俺…っ───!?」

 

あ。

という形でサンジの口が固まる。

 

その呆けた姿を目を眇めて見つめながら。

ゾロは、気付かれないように安堵の息を吐いた。

よかった。

でも。

 

たった、今かよ。

ここまでのことやらかすまでに、そういう考えがこれっぽっちも、浮かばないとか。

バカだバカだと思っちゃいたが……

 

思わず零れかけた言葉は無理に飲み込む。今ここでそれを吐いたら、何もかもが台無しになる予感はした。そして、それは間違いなく外れない。

 

足の間で、顔を真っ赤にしてサンジは固まっている。

ゾロは自分が大層マヌケな格好でいることを勿論わかっているのだが、根気良く、サンジの言葉を待った。

 

 

───…そっか俺……俺、ゾロが好きなのか……」

 

 

 

 

 

明日って俺達が会った記念日だろ?…だから、スルなら一番いい日だと思って。

 

半ば呆然としながらも、そう白状するサンジに、

(アホだ……)

呆れはする。

こっちの気持ちなどは全く考慮されていないのは、さすがに暴君の面目躍如というところだろうか。訊く必要もない、と無意識のうちに確信されていたのなら、それはそれでやはり思うところは多々あるけれど。でも。

(明日はそんなんの記念日なんかじゃねェだろうが…)

明日は、誕生日なのだ。

初めて会った時のように、プレゼントを寄越せ、と王様らしく要求して構わない日なのだ。

それなのに、サンジはこの約束に絡んだ会話の中、一度もそんなことを言ってはこなかった。何が食べたいか、何時に来られるか。サンジが気にしていたのは、そんなことばかり。

ゾロのことばかり、だ。

たとえ、その記念の日にしてやろうと思ったことが、要するに『こんな』ことであっても。

だが、どんな馬鹿げた理由をきっかけにしようとも、ゾロがそれを拒めなかったのは事実で、更に言うのなら。

 

「よし。わかった」

「え?」

「誕生日プレゼントの前払い、してやる」

 

大体こいつのあの態度は自分が俺に突っ込むつもりだったってことじゃねェか、全くとんでもねェな頭おかしいんじゃねェの、とゾロはびっくり顔のサンジを横抱きに抱えあげながらひとりごちる。

無意識なのだろうその手が、しがみ付くように背中に回ったのは、悪くない感触だった。

 

嗜みかどうかは知らねェけど。

頭ン中で散々鍛錬だけは積んだからな。

 

「祝いの言葉は、改めて明日、な」

根っからの修行好きの似非侍は、そうして目を白黒させているサンジに、凶悪な笑みを向ける。

 

それより先に言わなければならない言葉は、男として間違うつもりは全くない。

END.

 

     
  月夏 様からの作品コメント
   

昨年投稿させていただいた「あこるでぃおん」の続編になります。単独ではわかりづらいお話でごめんなさい。
侍というより男でいたいオトコノコのお話になりました。
脳内鍛錬の成果についてはええと、ゾロは頑張りました、ということで。
因みにゼフはサンジの誕生日に合わせて大間のマグロを仕入れに出かけているんですけど(勿論内緒で)、まさかこんなことが留守中に起きているとは思いもよらず。
ごり押しで日本に来たことを後悔するんだと思います。かわいそうジジィ。

     
  千腐連コメント
   

フカ:去年いただいた、お箸が使えないサンジの続きです
玉:今年はゾロサイドです。
きぬ:ガイジン・サンジ
フカ:武士なゾロ。
きぬ:ママンが宮本武蔵ファン(笑
きぬ:隠された秘密、素敵設定
玉:ゼフが大間のマグロを仕入れている間に、ゾロの前でマグロにされてるサンちゃん
きぬ:マグロはうまいからねぇ
玉:かわいそう、ジジィ
フカ:マグロといっても、冷凍されてないやつね
玉:ぴっちぴちなのよね
フカ:まだピチピチなやつね
玉:ハトヤのCMみたくぴっちぴち
フカ:また懐かしの昭和な話を。(笑)
玉:あらうっかり
きぬ:ブシノタシナミですから
きぬ:シュドー
きぬ:うふふ
きぬ:サンジったらとことんおばかさん
フカ:ブシノタシナミで、シュドーをしちゃったサンジ。
玉:ああん
きぬ:でもさ、これがゾロ以外だったら「それはパス」だったろうに
玉:おばかさんじ
フカ:しかも、やっちまうまで、どうしてやろうと思ったのか気づかなかったおばかさん
きぬ:相手がゾロだったばっかりに、何の躊躇もなくやっちゃったおばかさん
きぬ:きゃわいいぜー!
フカ:ガイジンだからって以前にオマヌケさんだったんだねぇ
きぬ:かわいいねぇ、心底
きぬ:ゾロも目が離せません
フカ:一生懸命なんだよね、サンジは
玉:もう気分は将軍様の夜伽に上がるお小姓
きぬ:もりらんまる
きぬ:シュドーだから
きぬ:もうおだのぶながに感謝だね
玉:オトノサマのおなさけを・・・
フカ:しっかりと情を交わしていただきましょう
きぬ:殿様のおち○ぽ、ちょうらぃ、って言うのよ、って教えたら
玉:わーあ
きぬ:このサンジは言うのでしょうか、ゾロ相手に
玉:言うね
きぬ:ゾロ、萎える気がするんだけど
玉:「お殿さまの濃くまろミルクちょーらい」っていうね
きぬ:「待て待て待て待て」って
玉:「いやいやいや、なに読んだ、お前」って。
フカ:タシナミですから
きぬ:「どこでそんなバカなこと覚えてきやがった!」って
玉:「いーからお手本にしたやつここに出せ」って
きぬ:これ、ってサンジが出して見せるのは?
玉:みさくら?
きぬ:そのへんだろう(笑
フカ:わあ
きぬ:ゾロ、無言で額に青筋浮かべて、その本叩き落とすね<みさくら
玉:意外に「男色事始」とか「陰間茶屋入門」とかそんなの読んでたりしてね
きぬ:淫靡だわ
玉:井原西鶴のはなんだっけ
きぬ:好色…なんとか
きぬ:好色一代男?
玉:男色大鑑だ
玉:男色もの
きぬ:あはは、全然違うわ
きぬ:すっげぇもん書いたな、西鶴のおっちゃん
玉:あと、平賀源内だったかが、江戸の陰間茶屋のガイドブックを書いてたはず
きぬ:源内さん、結構マルチプレイヤーだな
フカ:や、このサンジはさ、
フカ:勉強してはいるけど、基本ガイジンじゃん?
きぬ:うん
玉:うん
フカ:いきなりそんな、古文調のは読まないんじゃないの?
きぬ:現代語訳とか、英訳してあるやつとかじゃね?
玉:いやあ、浮世絵とか
玉:いろいろ間違った日本文化に触れてそうだなあと
フカ:きっと、ネットに出てる
フカ:動画になってるような
フカ:きぬたとか、きぬたとか、きぬたとか、絵になってるようなさ
きぬ:なんで私の名を連呼しているんだろうと思ってしまいまひた<きぬたとか
玉:ああ
きぬ:しかしたまもそういうのに無駄に詳しいな<源内さん
玉:ホモビア。
きぬ:次回、二度目のえっちには
きぬ:花魁姿になってそうなサンジ
玉:だから、歌麿の陰間浮世絵とかさ<歌枕
フカ:中途半端な解説を読んでっから、
フカ:実践編を探しにいくのか。>ネット
玉:そうそう
きぬ:「ヨシワラごっこしようぜ、ゾロ!」って、なりきりっこプレイに目覚めるサンジ
玉:わあ
きぬ:「悪代官と町娘しようぜ、ゾロ!」
玉:「まわれまわれぃ」「あれえええゴムタイな」
玉:だな
きぬ:どんなムエタイ?<ゴムタイ
フカ:わぁ
きぬ:「僧侶と寺小姓しようぜ、ゾロ!」
きぬ:無駄に詳しいサンジ
玉:無駄に詳しい(笑)
きぬ:「宿場町の旅人とメシ盛り女ごっこしようぜ、ゾロ!」
きぬ:マニアックな(笑
フカ:どんどん細かくなっていくな。
玉:マニアックだな
フカ:メシ盛り女を女体盛りと一瞬読んでしまった
フカ:サンジ盛りならイケるかな
玉:お殿様と小姓ごっこはないのか?
きぬ:「越後の縮緬問屋のご隠居と忍びの九の一ごっこしようぜ、ゾロ!」
きぬ:「誰がご隠居だ!」
きぬ:さすがにキレるゾロ
玉:「ノブナガ・オダとランマール・モリごっこしようぜ!」
フカ:ランマール
きぬ:蘇ったノブナーガにぶった斬られるな
きぬ:鬼の形相で蘇ってきそうだ、ノブナーガ
玉:魔界転生ね
フカ:蘇ったノブナーガなら、きっとサンジを食っちゃうよ
フカ:で、ゾロと差しで勝負だ
きぬ:「魔界転生ごっこしようぜ、ゾロ!」
きぬ:「いい加減飽きろよ!」
きぬ:そこにランマール乱入
きぬ:「わたくし一人とおっしゃってくださったのは
きぬ:あれは嘘でございましたのか!」
きぬ:もう痴話ゲンカ勃発
フカ:え、なに、みんなでくんずほぐれつ?
きぬ:ううん、それを正座して見ているゾロとサンジ
玉:話がどんどんSFなんだかオカルトなんだか
フカ:ゾロサンだよ。
きぬ:「やっぱ本物はこえぇなぁ」ってサンジ
きぬ:ようやくこりたサンジ
きぬ:ようやく正常なえっちになるかとゾロが安心したかと思えば
きぬ:サンジ、今度は四十八手に目覚める!
きぬ:「今度はこれやってみようぜ、ゾロ!」
玉:砧か
玉:砧なんだな
フカ:きぬただな
きぬ:きぬこだよ?
玉:へんなおち(笑)